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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)193号 判決

本籍

大分県北海部郡佐賀関町大字白木二三九三番地

住居

東京都三鷹市井の頭四丁目五番八号

基礎工事業

姫野友孝

昭和七年一〇月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金二、二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都三鷹市井の頭四丁目五番八号において、「姫野基礎工事所」の名称で基礎工事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、工事収入の一部を除外し、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年分の実際総所得金額が六、二九九万八、八四六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五三年三月一五日、東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番地一号所在の所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額が一、二二五万四、九一六円でこれに対する所得税額が二九六万七、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五六年押第六八〇号の1)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三、二九九万四、一〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額三、〇〇二万六、二〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年分の実際総所得金額が六、四三一万五、三〇〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一五日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が一、七五七万五、五二五円でこれに対する所得税額が五三五万七、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三、三八一万三、八〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二、八四五万六、七〇〇円を免れ、

第三  昭和五四年分の実際総所得金額が四、一四〇万九、三六二円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年三月一五日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が八八三万八、九七〇円でこれに対する所得税額が一五八万六、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、八五三万八、九〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一、六九五万二、六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  収税官吏作成の収入金額、基礎工事売上、受取リース料、機械販売収入、雑収入、機械売上原価、租税公課、荷造運賃、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、損害保険料、修繕費、消耗品費、減価償却費、機械器具備品、建物構築物、車両、給料賃金、利子割引料、燃料費、外注加工費、現場宿泊費、図書印刷費、事故保証費、安全協力会費、使用材料費、リース料、人夫あっ旋手数料、機械車両廃棄損、雑費、青色申告控除、専従者控除、不動産所得、利子所得、雑所得、手形割引、支払手数料(雑所得の経費)、貸付金利息収入、給付補てん金及び機械譲渡に関する各調査書各一通

一  武蔵野税務署長作成の証明書

一  押収してある昭和五二年ないし同五四年の所得税確定申告書等各一袋(昭和五六年押第六八〇号の1ないし3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条によりいずれについても軽い行為時法の刑によることとし、いずれも所定の懲役と罰金を併科し、かつ各罪につき情状により所得税法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金二、二〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、基礎工事業を営む被告人において、工事売上の一部除外、経費の水増しのほか、手形割引収入・貸付金の利息収入の除外などの方法によって三年度にわたり七、五〇〇万円余りの所得税を免れたというものであるが、被告人は、昭和五二年九月ころ大腸ポリープと診断されたことなどから、自己の健康に不安を抱き、家族等のために貯えを残しておこうと考えて本件脱税に及んだ旨供述しているところ、右動機ゆえに脱税が正当化されるものでないことはいうまでもない。ところで被告人は、昭和四四年ころから青色申告をするようになったが、その当初から仕事が忙しいことから帳簿等を充分に記帳せず、その後二回にわたって税務調査を受けるなどしたにも拘らず同様の記帳態度を続け、本件脱税に至ったものであって、こうした態度は納税軽視につながるといって過言でなく、甚だ芳しくないものといえる。また、本件脱税によって免れた額は前示の通りであって少なくなく、ほ脱率も八八パーセント余りであることなども併せ考えると被告人の刑責は軽視することができない。

しかしながら他方、被告人は本件犯行後各年度について修正申告し、本税等その大部分について既に納付済であること、事業を法人組織に改めたうえで税理士の指導のもとに会計帳簿等に正しい記帳をする旨誓っていることなど被告人に有利な事情も認められ、その他被告人の反省の程度、家庭の事情、健康状態等本件に現われた一切の事情を総合考慮し、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(一) 修正損益計算書

姫野友孝 No.1

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

No.2

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

姫野友孝 No.1

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

No.2

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

姫野友孝 No.1

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

No.2

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

別紙(四) ほ脱税額計算書

姫野友孝

〈省略〉

〔注〕 昭和52年度の申告税額は2,909,100円であるが、これは控除額集計誤りによる算出税額である。

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